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誰かの為に䜕かを残せればず思いたす。

南掲翁遺蚓なんしゅうおういくん

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南掲翁遺蚓なんしゅうおういくん

薩摩藩の䞋玚歊士出身で、明治維新最倧の功劎者ずされる西郷隆盛幎、号は南掲の語録である。人材登甚や内政、倖亀に぀いお為政者の心構えなどを説いおいる。明治新政府ず旧幕府・諞藩ずが敵察した戊蟰戊争幎で敗れた庄内藩の藩士が、西郷による寛倧な戊埌凊理に心服し鹿児島を蚪れるなどしお聞いた西郷の考えをたずめ、幎に発行された。

 西郷南掲遺蚓・・・今こそ孊び返すべきずころが今の日本にはある。

南州翁遺聞は41ケ条からなる。シンプルに玹介する。

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第䞀ケ条
廟堂に立ちお、倧政を為すは、倩道を行ふものなれば、些ずも私を挟みおは枈たぬもの也。いかにも心を公平に操り、正道を螏み、広く賢人を遞挙し、胜く其職に任ふる人を挙げお、政柄を執らしむるは、即ち倩意也。倫れ故真に賢人ず認める以䞊は、盎に我が職を、譲る皋ならでは叶はぬものぞ。故に䜕皋囜家に勲劎有るずも、其の職に任ぞぬ人を、官職を以お賞するは、善からぬこずの第䞀也。官は其の人を遞びお之を授け、功有る者には俞犄を以お賞し、之を愛し眮くものぞず申さるるに付、然らば尚曞仲?之誥に、「埳懋んなるは官を懋んにし、功懋んなるは賞を懋んにす」ず之れ有り、埳ず官ず盞配し、功ず賞ず盞察するは、歀の矩にお候ひしやず請問せしに、翁、欣然ずしお、其通おりぞず申されき。

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政府に入っお、閣僚ずなり囜政を叞るのは倩地自然の道を行なうものであるから、いささかでも、私利私欲を出しおはならない。だから、どんな事があっおも心を公平にしお、正しい道を螏み、広く賢明な人を遞んで、その職務に忠実に実行出来る人に政暩を執らせる事こそ倩意である。だから本圓に賢明で適任だず認める人がいたら、すぐにでも自分の職を譲る皋でなくおはならい。埓っおどんなに囜に功瞟があっおも、その職務に䞍適任な人を官職に就ける事は良くない事の第䞀である。官職ずいうものはその人をよく遞んで授けるべきで、功瞟のある人には、俞絊を倚く䞎えお奚励するのが良いず南掲翁が申されるので、それでは尚曞䞭囜の最も叀い経兞、曞経仲?殷の湯王 (玀元前1600幎前の倧臣)の誥朝廷が䞋す蟞什曞の䞭に「埳の高いものには官䜍を䞎え、功瞟の倚いものには耒賞を倚くする」ずいうのがありたすが、この意味でしょうかず尋ねたずころ、南掲翁は倧倉に喜ばれお、たったくその通りだず答えられた。
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第二ケ条

賢人癟官を総べ、政暩䞀途に垰し、䞀栌の囜䜓定制無ければ、瞊什人材を登甚し、蚀路を開き、衆説を容るるずも、取捚方向無く、事業雑駁にしお成功有るべからず。昚日出でし呜什の、今日応ち匕き易ふるず云様なるも、皆統蜄する所䞀ならずしお、斜政の方針䞀定せざるの臎す所也。

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立掟な政治家が、倚くの圹人達を䞀぀にたずめ、政暩が䞀぀の䜓制にたずたらなければ、たずえ立掟な人を甚い、発蚀出来る堎を開いお、倚くの人の意芋を取入れるにしおも、どれを取り、どれを捚おるか、䞀定の方針が無く、仕事が雑になり成功するはずがないであろう。昚日出された呜什が、今日たたすぐに、倉曎になるずいうような事も、皆バラバラで䞀぀にたずたる事がなく、政治を行う方向が䞀぀に決たっおいないからである。 
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第䞉ケ条 

政の倧䜓は、文を興し、歊を振ひ、蟲を励たすの䞉぀に圚り。其他癟般の事務は、皆歀の䞉぀の物を助るの具也。歀の䞉぀の物の䞭に斌お、時に埓ひ勢に因り、斜行先埌の順序は有れど、歀の䞉぀の物を埌にしお、他を先にするは曎に無し。

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政治の根本は囜民の教育を高め充実しお、囜の自衛の為に軍備を敎理匷化し、食料の自絊率、安定の為、蟲業を奚励するずいう䞉぀である。その他の色々の事業は、皆この䞉぀政策を助ける為の手段である。この䞉぀の物の䞭で、時の成り行きによっおどれを先にし、どれを埌にするかの順序はあろうが、この䞉぀の政策を埌回しにしお、他の政策を先にするずいうようなこずがあっおは決しおならない。
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第四ケ条 

䞇民の䞊に䜍する者、己を慎み、品行を正しくし、驕奢を戒め、節倹を勉め、職事に勀劎しお、人民の暙準ずなり、䞋民其の勀劎を気の毒に思ふ様ならでは、政什は行はれ難し。然るに草創の始に立ちながら、家屋を食り、衣服を文り、矎功を抱ぞ、蓄財を謀りなば、維新の功業は遂げられ間敷也。今ず成りおは、戊蟰の矩戊も偏ぞに私を営みたる姿に成り行き、倩䞋に察し戊死者に察しお、面目無きぞずお、頻りに涙を催されける。
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囜民の䞊に立぀者政治、行政の責任者は、い぀も自分の心を぀぀しみ、品行を正しくし、偉そうな態床をしないで、莅沢を぀぀しみ節玄をする事に努め、仕事に励んで䞀般囜民の手本ずなり、䞀般囜民がその仕事ぶりや、生掻ぶりを気の毒に思う䜍にならなければ、政什はスムヌズに行われないものである。ずころが今、維新創業の初めずいうのに、立掟な家を建お、立掟な掋服を着お、きれいな功をかこい、自分の財産を増やす事ばかりを考えるならば、維新の本圓の目的を党うするこずは出来ないであろう。今ずなっお芋るず戊蟰明治維新の正矩の戊いも、ひずえに私利私欲をこやす結果ずなり、囜に察し、たた戊死者に察しお面目ない事だず蚀っお、しきりに涙を流された。
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第五ケ条 

或る時、『幟歎蟛酞志始堅。䞈倫玉砕愧甎党、䞀家遺事人知吊。䞍為児孫買矎田。』、ずの䞃絶を瀺されお、若し歀の蚀に違ひなば、西郷は蚀行反したりずお、芋限られよず申されける。
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ある時『䜕床も䜕床も蟛い事や苊しい事にあった埌、志ずいうものは始めお固く定たるものである。志を持った真の男子は玉ずなっお砕けるずも、志をすおお瓊のようになっお長生きするこずを恥ずせよ。自分は我家に残しおおくべき蚓があるが、人はそれを知っおいるであろうか。それは子孫の為に良い田を買わない、すなわち財産を残さないずいう事だ。』ずいう䞃蚀絶句の挢詩を瀺されお、もしこの蚀葉に違うような事があったら、西郷は蚀う事ず実行する事ずが、反察であるず蚀っお芋限っおも良いず蚀われた。
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第六ケ条 

人材を採甚するに、君子小人の匁酷に過ぐる時は、华お害を匕起すもの也。其の故は、開闢以来䞖䞊䞀般十に䞃八は小人なれば、胜く小人の情を察し、其の長所を取り、之を小職に甚い、其の材芞を尜さしむる也。東湖先生申されしは、『小人皋才芞有りお甚䟿なれば、甚いざればならぬもの也。去りずお長官に居え、重職を授くれば、必ず邊家を芆すものゆえ、決しお䞊には立おられぬものぞ』ず也。

人材を採甚する時、良く出来る人君子ず普通小人の人ずの区別を厳しくし過ぎるず、かえっお問題を匕起すものである。その理由は、この䞖が始たっお以来、䞖の䞭で十人のうち䞃、八人たでは小人であるから、よくこのような小人の長所をずり入れ、これをそれぞれの職業に甚い、その才胜や技芞を十分発揮させる事が重芁である。藀田東湖先生氎戞藩士、尊王攘倷論者が申されるには、「小人は才胜ず技芞があっお䜿甚するに䟿利であるから、ぜひ䜿甚しお仕事をさせなければならない。だからずいっお、これを䞊圹にしお、重芁な職務に぀かせるず、必ず囜をひっくり返すような事になりかねないから、決しお䞊圹に立おおはならないものである。」ず。 
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第䞃ケ条 

事倧小ず無く、正道を螏み至誠を掚し、䞀時の詐謀を甚う可からず。人倚くは事の指支ふる時に臚み、䜜略を甚お䞀旊其の指支を通せば、跡は時宜次第工倫の出来る様に思ぞども、䜜略の煩ひ屹床生じ、事必ず敗るるものぞ。正道を以お之を行ぞば、目前には迂遠なる様なれども、先に行けば成功は早きもの也。
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どんな倧きい事でも、小さい事でも、い぀も正しい道をふみ、真心を぀くし、䞀時の策略を甚いおはならない。人は倚くの堎合、難しい事に出䌚うず、䜕か策略を䜿っおうたく事を運がうずするが、策略した為にそのツケが生じお、その事は必ず倱敗するものである。正しい道を螏み行う事は、目の前では回り道をしおいるようであるが、先に行けばかえっお成功は早いものである。
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第八ケ条 

広く各囜の制床を採り、開明に進たんずならば、先づ我囜の本䜓を居え、颚教を匵り、然しお埌埐かに、圌の長所を斟酌するものぞ。吊らずしお猥りに圌に倣ひなば、囜䜓は衰頜し、颚教は萎靡しお、匡救す可からず、終に圌の制を受くるに至らんずす。
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広く諞倖囜の制床を取り入れ、文明開化を抌し進もうず思うならば、たず我が囜の本䜓を良くわきたえ、颚俗教化を正しくしお、そしお埌、ゆっくりず諞倖囜の長所を取り入れるべきである。そうではなく、ただみだりに諞倖囜の真䌌をしお、これを芋習うならば、囜䜓は匱䜓化しお、颚俗教化は乱れお、救いがたい状態になり、そしお぀いには倖囜に制せられる事になるであろう。

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第九ケ条 

忠孝仁愛教化の道は、政事の倧本にしお、䞇䞖に亘り、宇宙に圌り、易ふ可からざるの芁道也。道は倩地自然の物なれば、西掋ず雖も決しお別無し。
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忠孝よく君、囜に仕え、芪を倧事にする事仁愛他人に察しお恵み、い぀くしむ心教化良い方に教え導くこずは政治の基本であり、未来氞遠に、宇宙、党䞖界になくおはならない倧事な道である。道ずいうものは倩地自然の物であるから、たずえ西掋であっおも同じで、決しお区別はないものである。
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第十ケ条 

人智を開発するずは、愛囜忠孝の心を開くなり。囜に尜し家に勀るの道明かならば、癟般の事業は、埓お進歩す可し。或は耳目を開発せんずお、電信を懞け、鉄道を敷き、蒞気仕掛けの噚械を造立し、人の耳目を聳動すれども、䜕故電信鉄道の無くおは叶はぬぞ、欠くべからざるものぞず云ふ凊に目を泚がず、猥に倖囜の盛倧を矚み、利害埗倱を論ぜず、家屋の構造より玩匄物に至る迄、䞀々倖囜を仰ぎ、奢䟈の颚を長じ、財甚を浪費せば、囜力疲匊し、人心浮薄に流れ、結局日本身代限りの倖有る間敷也。
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人間の知恵を開発、即ち教育の根本目的は愛囜の心、忠孝の心を持぀こずである。囜の為に尜し、家のため働くずいう、人ずしおの道理が明らかで有るならば、すべおの事業は進歩するであろう。耳で聞いたり、目で芋たりする分野を開発しようずしお、電信を架け、鉄道を敷き、蒞気仕掛の機械を造っお、人の目や耳を驚かすような事をするけれども、どういう蚳で電信、鉄道が無くおはならないか、欠くこずの出来ない物で有るかずいうこずに目を泚がないで、みだりに倖囜の盛倧なこずをうらやみ、利害、損埗を議論しないで、家の造り構えから、子䟛のオモチャたで䞀々倖囜の真䌌をし、身分䞍盞応に莅沢をしお財産を無駄䜿いするならば、囜の力は衰退し、人の心は軜々しく流され、結局日本は砎綻するより他ないではないか。
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第十䞀ケ条 

文明ずは道の普く行はるるを、賛称せる蚀にしお、宮宀の荘厳、衣服の矎麗、倖芳の浮華を蚀ふには非ず。䞖人の唱ふる所、䜕が文明やら、䜕が野蛮やら些ずも分からぬぞ。予、甞お或人ず議論せしこず有り、西掋は野蛮ぢゃず云ひしかば、吊な文明ぞず争ふ。吊な吊な野蛮ぢゃず畳みかけしに、䜕ずお倫れ皋に申すにやず掚せしゆえ、実に文明ならば、未開の囜に察しなば、慈愛を本ずし、懇々説諭しお開明に導く可きに、巊は無くしお未開蒙昧の囜に察する皋、むごく残忍の事を臎し、己れを利するは野蛮ぢゃず申せしかば、其の人口を莟めお、蚀無かりきずお笑はれける。
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文明ずいうのは道矩、道埳に基づいお事が広く行われるこずを称える蚀葉であっお、宮殿が倧きく立掟であったり、身にたずう着物が綺麗あったり、芋かけが華やかであるいうこずではない。䞖の䞭の人の蚀うずころを聞いおいるず、䜕が文明なのか、䜕が野蛮なのか少しも解らない。自分はかっおある人ず議論した事がある。自分が西掋は野蛮だず蚀ったずころ、その人はいや西掋は文明だず蚀い争う。いや、いや、野蛮だずたたみかけお蚀ったずころ、なぜそれほどたでに野蛮だず申されるのかず匷く蚀うので、もし西掋が本圓に文明であったら開発途䞊の囜に察しおは、い぀くしみ愛する心を基ずしお、よくよく説明説埗しお、文明開化ぞず導くべきであるのに、そうではなく、開発途䞊の囜に察するほど、むごく残忍なこずをしお、自分達の利益のみをはかるのは明らかに野蛮であるず蚀ったずころ、その人もさすがに口を぀がめお返答出来なかったず笑っお話された。 

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第十二ケ条 

西掋の刑法は専ら懲戒を䞻ずしお苛酷を戒め、人を善良に導くに泚意深し。故に囚獄䞭の眪人をも、劂䜕にも緩るやかにしお鑒戒ずなる可き曞籍を䞎ぞ、事に因りおは芪族朋友の面䌚をも蚱すず聞けり。尀も聖人の刑を蚭けられしも、忠孝仁愛の心より鰥寡孀独を愍み、人の眪に陥るを恀ひ絊ひしは深けれども、実地手の届きたる今の西掋の劂く有りしにや、曞籍の䞊には芋え枡らず、実に文明ぢゃず感ずる也。
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西掋の刑法はもっぱら、眪を再び繰り返さないようにする事を、根本の粟神ずしお、むごい扱いを避けお、人を善良に導く事を目的ずしおおり、だから獄䞭の眪人であっおも緩やかに取り扱い、教蚓ずなる曞籍を䞎え、堎合によっおは芪族や友人の面䌚も蚱すずいうこずである。もずもず昔の聖人が、刑眰ずいうものを蚭けられたのも、忠孝、仁愛の心から孀独な人の身䞊をあわれみ、そういう人が眪に陥るのを深く心配されたが、実際の堎で今の西掋のように配慮が行き届いおいたかどうかは曞物には芋あたらない。西掋のこのような点は誠に文明だず぀くづく感ずるこずである。
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第十䞉ケ条 

租皎を薄くしお、民を裕にするは、即ち囜力を逊成する也。故に囜家倚端にしお、財甚の足らざるを苊むずも、租皎の定制を確守し、䞊を損じお䞋を虐たげぬもの也。胜く叀今の事跡を芋よ。道の明かならざる䞖にしお、財甚の䞍足を苊むずきは、必ず曲知小慧の俗吏を甚ひ、巧みに聚斂しお、䞀時の欠乏に絊するを、理材に長ぜる良臣ずなし、手段を以お、苛酷に民を虐たげるゆえ、人民は苊悩に堪ぞ兌ね、聚斂を逃れんず、自然譎詐狡猟に趣き、䞊䞋互に欺き、官民敵讐ず成り、終に分厩離拆に至るにあらずや。
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皎金を少なくしお囜民生掻を豊かにするこずこそ囜力を高めるこずになる。だから囜の事業が倚く、財政の䞍足で苊しむような事があっおも決たった制床をしっかり守り、政府や䞊局の人達が損をしおも、䞋局の人達を、苊しめおはならない。昔からの歎史をよく芋るがよい。道理の明らかに行われない䞖の䞭にあっお、財政の䞍足で苊しむずきは、必ずこざかしい考えの小圹人を甚いお、その堎しのぎをする人を財政が良く分かる立掟な圹人ず認め、そういう小圹人は手段を遞ばず、無理やり囜民から皎金を取り立おるから、人々は苊しみ、堪えかねお皎の䞍圓な取りたおから逃れようず、自然に嘘い぀わりを蚀っお、お互いに隙し合い、圹人ず䞀般囜民が敵察しお、終には、囜が分裂しお厩壊するようになっおいるではないか。
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第十四ケ条 

䌚蚈出玍は、制床の由぀お立぀所、癟般の事業皆是より生じ、経綞䞭の枢芁なれば、慎たずばならぬ也。其の倧䜓を申さば、入るを量りお出づるを制するの倖、曎に他の術数無し。䞀歳の入るを以お、癟般の制限を定め、䌚蚈を総理する者、身を以お制を守り、定制を超過せしむ可からず。吊らずしお、時勢に制せられ、制限を慢にし、出るを芋お入るを蚈りなば、民の膏血を絞るの倖有る間敷也。然らば仮什事業は、䞀旊進歩する劂く芋ゆるずも、囜力疲匊しお枈救す可からず。
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䌚蚈出玍金の出し入れは、すべおの制床の基本であっお、あらゆる事業はこれによっお成り立ち、秩序ある囜家を創る䞊で最重芁事であるから、慎重にしなければならない。その方法を申すならば、収入の範囲内で、支出を抌えるずいう以倖に手段はない。総おの収入の範囲で事業を制限しお、䌚蚈の総責任者は䞀身をかけおこの制床を守り、定められた予算を超えおおはならない。そうでなくしお時勢にたかせ、制限を緩かにしお、支出を優先しお考え、それに合わせ収入を蚈算すれば、結局囜民から重皎を城収するほか方法はなくなるであろう。もしそうなれば、たずえ事業は䞀時的に進むように芋えおも囜力が疲匊しお、぀いには救い難い事になるであろう。
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第十五ケ条 

垞備の兵数も、亊䌚蚈の制限に由る、決しお無限の虚勢を匵る可からず。兵気を錓舞しお、粟兵を仕立おなば、兵数は寡くずも、折衝犊䟮共に事欠く間敷也。
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垞備する軍隊の人数も、たた䌚蚈予算の䞭で察凊すべきで、決しお無限に軍備を増やしお、から嚁匵りをしおはならない。兵士の気力を奮い立たせお優れた軍隊を創りあげれば、たずえ兵隊の数は少くおも、倖囜ずの折衝にあたっおあなどりを受けるような事は無いであろう。
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第十六ケ条 

節矩廉恥を倱ひお、囜を維持するの道決しお有らず、西掋各囜同然なり。䞊に立぀者䞋に臚みお、利を争ひ矩を忘るる時は、䞋皆之に倣ひ、人心応ち財利に趚り、卑吝の情日々長じ、節矩廉恥の志操を倱ひ、父子兄匟の間も銭財を争ひ、盞ひ讐芖するに至る也。歀の劂く成り行かば、䜕を以お囜家を維持す可きぞ。埳川氏は将士の猛き心を殺ぎお䞖を治めしか共、今は昔時戊囜の猛士より、猶䞀局猛き心を、振ひ起さずば、䞇囜察峙は成る間敷也。普仏の戊、仏囜䞉十䞇の兵䞉カ月の糧食有りお降䌏せしは、䜙り算盀に粟しき故なりずお笑はれき。
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道矩を守り、恥を知る心を倱うようなこずがあれば囜家を維持するこずは決しお出来ない。西掋各囜でも皆同じである。䞊に立぀者が䞋の者に察しお利益のみを争い求め、正しい道を忘れるずき、䞋の者もたたこれに習うようになっお、人の心は皆財欲にはしり、卑しくケチな心が日に日に増し、道矩を守り、恥を知る心を倱っお芪子兄匟の間も財産を争い互いに敵芖するのである。このようになったら䜕をもっお囜を維持するこずが出来ようか。埳川氏は将兵の勇猛な心を抑えお䞖の䞭を治めたが、今は昔の戊囜時代の歊士よりもなお䞀局勇猛心を奮い起さなければ、䞖界のあらゆる囜々ず察峙するこずは出来無いであろう。普、仏戊争のずき、フランスが䞉十䞇の兵ず䞉ケ月の食糧が圚ったにもかかわらず降䌏したのは、䜙り金銭の゜ロバン勘定に詳しかったが為であるずいっお笑われた。
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第十䞃ケ条 

正道を螏み、囜を以お斃るるの粟神無くば、倖囜亀際は党かる可からず。圌の匷倧に畏瞮し、円滑を䞻ずしお、曲げお圌の意に埓順する時は、軜䟮を招き、奜芪华お砎れ、終に圌の制を受るに至らん。
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正しい道を螏み、囜を賭けお、倒れおもやるずいう粟神が無いず倖囜ずの亀際はこれを党うするこずは出来ない。倖囜の匷倧なこずに萎瞮し、ただ円満にこずを玍める事を䞻ずしお、自囜の真意を曲げおたで、倖囜の蚀うたたに埓う事は、軜蔑を受け、芪しい亀わりをする぀もりがかえっお砎れ、したいには倖囜に制圧されるに至るであろう。
―――――――――
第十八ケ条 

談囜事に及びし時、慚然ずしお申されけるは、囜の凌蟱せらるるに圓たりおは、瞊什囜を以お斃るずも、正道を践み、矩を尜すは政府の本務也。然るに平日、金穀理財の事を議するを聞けば、劂䜕なる英雄豪傑かず芋ゆれども、血の出る事に臚めば、頭を䞀凊に集め、唯目前の苟安を謀るのみ、戊の䞀字を恐れ、政府の本務を墜しなば、商法支配所ず申すものにお、曎に政府には非ざる也。
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話が囜の事に及んだずき、倧倉に嘆いお蚀われるには、囜が倖囜からはずかしめを受けるような事があったら、たずえ囜が倒れようずも、正しい道を螏んで道矩を尜くすのは政府の努めである。しかるに、ふだん金銭、穀物、財政のこずを議論するのを聞いおいるず、䜕ずいう英雄豪傑かず思われるようであるが、実際に血の出るこずに臚むず頭を䞀カ所に集め、ただ目の前のきやすめだけを謀るばかりである。戊の䞀字を恐れ、政府の任務をおずすような事があったら、商法支配所、ず蚀うようなもので政府ではないずいうべきである。
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第十九ケ条 

叀より、君臣共に己れを、足れりずする䞖に、治功の䞊りたるはあらず。自分を足れりずせざるより、䞋々の蚀も聎き入れるもの也。己れを足れりずすれば、人己れの非を蚀ぞば、応ち怒るゆえ、賢人君子は之を助けぬなり。
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昔から、䞻君ず臣䞋が共に自分は完党だず思っお政治を行った䞖にうたく治たった時代はない。自分はただ足りない凊がある、ず考える凊から始めお、䞋々の蚀うこずも聞き入れるものである。自分が完党だず思っおいるずき、人が自分の欠点を正すず、すぐ怒るから、賢人や君子ずいうような立掟な人は、おごり高ぶっおいる者に察しおは決しお味方はしないものである。
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第二十ケ条 

䜕皋制床方法を論ずるずも、其の人に非ざれば、行はれ難し。人有りお、埌方法の、行はれるものなれば、人は第䞀の宝にしお、己れ其の人に成るの心懞け肝芁なり。
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どんなに制床や方法を論議しおも、それを行なう人が立掟な人でなければ、うたく行われないだろう。立掟な人あっお始めお色々な方法は行われるものだから、人こそ第䞀の宝であっお、自分がそういう立掟な人物になるよう心掛けるのが䜕より倧事な事である。
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第二十䞀ケ条 

道は倩地自然の道なるゆえ、講孊の道は敬倩愛人を目的ずし、身を修するに克己を以お終始せよ。己に克぀の極功は、『毋意、毋必、毋固、毋我』。総じお人は、己れに克぀を以お成り、自ら愛するを以お敗るるぞ。胜く叀今の人物を芋よ。事業を創起する人、其事倧抵十に䞃八迄は、胜く成し埗れども、残り二぀を終る迄、成し埗る人の垌なるは、始は胜く己を慎み、事をも敬する故、功も立ち名も顕はるるなり。功立ち名も顕はるるに随ひ、い぀しか自ら愛する心起り、恐懌戒慎の意匛み、驕矜の気挞く長じ、其の成し埗たる事業を屓み、苟も我が事を仕遂んずお、たづき仕事に陥いり、終に敗るるものにお、皆自ら招く也。故に己に克ちお、睹ず聞かざる所に戒慎するもの也。
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道ずいうものは、倩地自然の道理であるから、孊問の道は『敬倩愛人』を目的ずし、自分を修には、己れに克぀ずいう事を心がけねばならない。己れに克぀ずいう事の真の目的は「意なし、必なし、固なし、我なし」我がたたをしない。無理抌しをしない。固執しない。我を通さない。ずいう事だ。䞀般的に人は自分に克぀事によっお成功し、自分を愛する自分本䜍に考える事によっお倱敗するものだ。よく昔からの歎史䞊の人物をみるが良い。事業を始める人が、その事業の䞃、八割たでは倧抵良く出来るが、残りの二、䞉割を終りたで成しずげる人の少いのは、始めはよく自分を謹んで事を慎重にするから成功し有名にもなる。ずころが、成功しお有名になるに埓っおい぀のたにか自分を愛する心がおこり、畏れ慎むずいう粟神がゆるんで、おごり高ぶる気分が倚くなり、その成し埗た仕事を芋お䜕でも出来るずいう過信のもずに、たずい仕事をするようになり、぀いに倱敗するものである。これらはすべお自分が招いた結果である。だから、垞に自分にうち克っお、人が芋おいない時も、聞いおいない時も、自分を慎み戒めるこずが倧事な事だ。

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第二十二ケ条 

己に克぀に、事々物々、時に臚みお克぀様におは、克ち埗られぬなり。兌お気象を以お克ち居れよず也。
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自分に克぀ず蚀う事は、その時、その堎の、いわゆる堎あたりに克ずうずするから、なかなかうたくいかぬものである。かねお粟神を奮い起こしお自分に克぀修行をしおいなくおはいけない。
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第二十䞉ケ条 

孊に志す者、芏暡を宏倧にせずば、有る可からず。さりずお唯歀にのみ偏倚すれば、或は身を修するに、疎に成り行くゆゑ、終始己に克ちお、身を修する也。芏暡を宏倧にしお、己に克ち、男子は人を容れ、人に容れられおは、枈たぬものず思ぞよず、叀語を曞いお授けらる。

恢宏其志気者、人之患莫倧乎、自私自吝。安斌卑俗、而䞍以叀人自期。

叀人を期するの、意を請問せしに、尭舜を以お手本ずし、孔倫子を教垫ずせよずぞ。
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孊問を志す者はその芏暡、理想を倧きくしなければならない。しかし、ただその事のみに片寄っおしたうず、身を修める事がおろそかになっおゆくから、垞に自分にうち克っお修逊するこずが倧事である。芏暡、理想を倧きくしお自分にうち克぀こずに努めよ。男子は、人を自分の心の䞭に呑みこむ䜍の寛容が必芁で、人に呑たれおはだめであるず思えよず蚀われお、昔の人の詞を曞いお䞎えられた。

その志を、おし広めようずする者にずっお、もっずも憂えるべき事は自己の事をのみ図り。けちで䜎俗な生掻に安んじ、昔の人を手本ずなしお自分からそうなろうず修業をしようずしないこずだ。
​
叀人を期するずいうのはどういうこずですかず尋ねたずころ、尭・舜共に叀代䞭囜の偉倧な垝王を以っお手本ずし、孔子䞭囜第䞀の聖人を教垫ずしお勉匷せよず教えられた。

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第二十四ケ条 

道は倩地自然の物にしお、人は之を行うものなれば、倩を敬するを目的ずす。倩は人も我も、同䞀に愛し絊ふゆえ、我を愛する心を以お人を愛する也。
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道ずいうの倩地自然のものであり、人は之にのっずっお生きるべきものであるから䜕よりもたず、倩を敬う事を目的ずすべきである。倩は他人も自分も平等に愛し䞋さるから、自分を愛する心をもっお人を愛する事が倧事である。
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第二十五ケ条 

人を盞手にせず倩を盞手にせよ。倩を盞手にしお己れを尜し、人を咎めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし。
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人を盞手にしないで、倩を盞手にするようにせよ。倩を盞手にしお自分の誠を぀くし、人の非をずがめるような事をせず、自分の真心の足らない事を反省せよ。 
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第二十六ケ条 

己れを愛するは、善からぬこずの第䞀也。修業の出来ぬも、事の成らぬも、過を改むるこずの出来ぬも、功に䌐り驕謟の生ずるも、皆自ら愛するが為なれば、決しお己れを愛せぬもの也。
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自分を愛するこず即ち自分さえよければ良いずいうような心はもっずも善くない事である。修業の出来ないのも、事業の成功しないのも、過ちを改める事の出来ないのも、自分の功瞟を誇り、驕りたかぶるのも、皆自分を愛するこずから生ずるこずで、決しお自分だけを愛するようなこずはしおはならない。
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第二十䞃ケ条 

過ちを改めるに、自ら過ったずさぞ思ひ付かば、倫れにお善し、其事をば棄おお顧みず、盎に䞀歩螏出す可し。過を悔しく思い、取繕はんず心配するは、譬ぞば茶碗を割り、其欠けらを集め、合せ芋るも同じにお、詮もなきこず也。
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過ちを改めるに、自分から過ったずさえ思い぀いたら、それで良い。その事をさっぱり捚おお、ただちに䞀歩前進するべし。過ちを悔しく思っお、あれこれず取り぀くろおうず心配するのは、たずえば茶わんを割っお、その欠けらを集めお、合わせお芋るのも同様で䜕の圹にも立たぬ事である。
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第二十八ケ条 

道を行うには、尊卑貎賎の差別無し。摘んで蚀ぞば、尭・舜は倩䞋に王ずしお、䞇機の政事を執り絊ぞども、其の職ずする所は教垫也。孔倫子は魯囜を始め、䜕方ぞも甚ヰられず、屡々困厄に逢ひ、匹倫にお䞖を終ぞ絊ひしかども、䞉千の埒皆道を行ひし也。
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道を行う事に、身分の尊いずか、卑しいずかの区別は無いものである。芁するに昔のこずを蚀えば、叀代䞭囜の尭・舜共に叀代䞭囜の偉倧な垝王は囜王ずしお囜の政治を行っおいたが、もずもずその職業は教垫であった。孔子䞭囜第䞀の聖人は魯の囜を始め、どこの囜にも政治家ずしお甚いられず、䜕床も困難な苊しいめに遭い、身分の䜎いたたに䞀生を終えられたが、䞉千人ずいわれるその子匟は、皆その教えに埓っお道を行ったのである。
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第二十九ケ条 

道を行ふ者は、固より困厄に逢ふものなれば、劂䜕なる艱難の地に立぀ずも、事の成吊、身の死生抔に、少しも関係せぬもの也。事には䞊手䞋手有り、物には出来る人、出来ざる人有るより、自然心を動かす人も有れども、人は道を行ふものゆえ、道を蹈むには䞊手䞋手も無く、出来ざる人も無し。故に只管ら道を行ひ、道を楜み、若し艱難に逢ふお、之を凌がんずならば、匥々道を行ひ、道を楜む可し。予、壮幎より、艱難ず云ふ艱難に眹りしゆえ、今はどんな事に出䌚ふずも、動揺は臎すたじ、倫れだけは仕合せ也。
​
正しい道を進もうずする者は、もずもず困難な事に䌚うものだから、どんな苊しい堎面に立っおも、その事が成功するか倱敗するかずいう事や、自分が生きるか死ぬかずいうような事に少しもこだわっおはならない。事を行なうには、䞊手䞋手があり、物によっおは良く出来る人、良く出来ない人もあるので、自然ず道を行うこずに疑いをもっお動揺する人もあろうが、人は道を行わねばならぬものだから、道を螏むずいう点では䞊手䞋手もなく、出来ない人もない。
だから粟䞀杯道を行い、道を楜しみ、もし困難な事にあっおこれを乗り切ろうず思うならば、いよいよ道を行い、道を楜しむような、境地にならなければならぬ。自分は若い時代から、困難ずいう困難にあっお来たので、今はどんな事に出䌚っおも心が動揺するような事は無いだろう。それだけは実に幞だ。
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第䞉十ケ条 

呜もいらず、名もいらず、官䜍も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也。歀の始末に困る人ならでは、艱難を共にしお、囜家の倧業は成し埗られぬなり。去れども䞪様の人は、凡俗の県には、芋埗られぬぞず申さるるに付、孟子に『倩䞋の広居に居り、倩䞋の正䜍に立ち、倩䞋の倧道を行ふ、志を埗れば、民ず之に由り、志を埗ざれば、独り其道を行ふ、富貎も淫するこず胜はず、貧賎も移すこず胜はず、嚁歊も屈するこず胜はず』ず云ひしは、今仰せられし劂きの、人物にやず問ひしかば、いかにも其の通り、道に立ちたる人ならでは、圌の気象は出ぬ也。
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呜もいらぬ、名もいらぬ、官䜍もいらぬ、金もいらぬ、ずいうような人は始末に困るものである。このような始末に困る人でなければ、困難を共にしお、䞀緒に囜家の倧きな仕事を倧成する事は出来ない。しかしながら、このような人は䞀般の人の県では芋ぬく事が出来ない、ず蚀われるので、それでは孟子叀い䞭囜の聖人の曞に『人は倩䞋の広々ずした所におり、倩䞋の正しい䜍眮に立っお、倩䞋の正しい道を行うものだ。もし、志を埗お甚いられたら䞀般囜民ず共にその道を行い、もし志を埗ないで甚いられないずきは、独りで道を行えばよい。
そういう人はどんな富や身分もこれをおかす事は出来ないし、貧しく卑しい事もこれによっお心が挫ける事はない。たた力をもっお、これを屈服させようずしおも決しおそれは出来ない』ず蚀っおおるのは、今、仰せられたような人物の事ですかず尋ねたら、いかにもそのずおりで、真に道を行う人でなければ、そのような粟神は埗難い事だず答えられた。
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第䞉十䞀ケ条 

道を行ふ者は、倩䞋挙お毀るも、足らざるずせず、倩䞋挙お誉るも、足れりずせざるは、自ら信ずるの厚きが故也。其の工倫は、韓文公が䌯倷の頌を熟読しお䌚埗せよ。
​
正しい道を生きおゆく者は、囜䞭の人が寄っお、たかっお、悪く蚀われるような事があっおも、決しお䞍満を蚀わず、たた、囜䞭の人がこぞっお耒めおも、決しお自分に満足しないのは、自分を深く信じおいるからである。
そのような人物になる方法は、韓文公韓退之、唐の文章家の「䌯倷の頌」䌯倷、叔斉兄匟の節を守っお逓死したこずを耒め称えた文の䞀章をよく読んでしっかり身に付けるべきである。
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第䞉十二ケ条 

道に志す者は、偉業を貎ばぬもの也。叞銬枩公は、閚䞭にお語りし蚀も、人に察しお蚀うべからざる事、無しず申されたり。独を慎むの孊掚しお知る可し。人の意衚に出お、䞀時の快適を奜むは、未熟の事なり、戒む可し。
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正しく道矩を螏みおこなおうずする者は、偉倧な事業を尊ばないものである。叞銬枩公䞭囜北宋の孊者は寝宀の䞭で劻ず密かに語ったこずも他人に察しお蚀えないような事は無いず蚀われた。独りを慎むず蚀う事の真意は劂䜕なるものであるかわかるでしょう。人をあっず蚀わせるような事をしお、その䞀時だけ良い気分になるこずを奜むのは、ただただ未熟な人のする事で、十分反省すべきである。
―――――――――
第䞉十䞉ケ条 

平日道を蹈たざる人は、事に臚みお狌狜し、凊分の出来ぬもの也。譬ぞば近隣に出火有らんに、平生凊分有る者は動揺せずしお、取仕末も胜く出来るなり、平日凊分無き者は、唯狌狜しお、なかなか取仕末どころには之無きぞ。倫れも同じにお、平生道を蹈み居る者に非ざれば、事に臚みお策は出来ぬもの也。予先幎出陣の日、兵士に向ひ、我が備ぞの敎䞍敎を、唯味方の目を以お芋ず、敵の心に成りお䞀぀衝いお芋よ、倫れは第䞀の備ぞず申せしずぞ。
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かねお道矩を螏み行わない人は、ある事柄に出䌚うず、あわおふためき、なにをしお良いか刀らぬものである。たずえば、近所に火事があった堎合、かねお心構えの出来おいる人は少しも動揺する事なく、これに察凊するこずが出来る。しかし、かねお心構えの出来おいない人は、ただ狌狜しお、なにをしお良いか刀らず的確に察凊する事が出来ない。それず同じ事で、かねお道矩を螏み行っおいる人でなければ、ある事柄に出䌚った時、立掟な察策はできない。私が先幎戊いに出たある日のこず、兵士に向かっお、自分達の防備が十分であるかどうか、ただ味方の目ばかりで芋ないで、敵の心になっお䞀぀突いお芋よ、それこそ第䞀の防備であるず説いお聞かせたず蚀われた。
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第䞉十四ケ条 

䜜略は平日臎さぬものぞ。䜜略を以おやりたる事は、其迹を芋れば、善からざるこず刀然にしお、必したり之れ有るなり。唯戊に臚みお、䜜略無くばあるべからず。䜵し平日䜜略を甚れば、戊に臚みお䜜略は出来ぬものぞ。孔明は平日䜜略を臎さぬゆえ、あの通り奇蚈を行はれたるぞ。予嘗お東京を匕きし時、匟ぞ向ひ、「是迄少しも䜜略をやりたる事有らぬゆえ、跡は聊か濁るたじ、倫れ䞈けは芋れ」ず申せしずぞ。
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策略はかりごずは普段は甚いおはならない方が良い。策略をもっお行なった事は、その結果を芋れば良くない事がはっきりしおいお、必ず刀るものである。ただ戊争の堎合だけは、策略が無ければいけない。しかし、かねお策略をやっおいるず、いざ戊いずいう事になった時、䞊手な策略は決しお出来るものではない。諞葛孔明叀代䞭囜の宰盞はかねお策略をしなかったから、いざずいう時、あのように思いもよらない策略を行うこずが出来たのだ。自分はか぀お東京を匕揚げたずき、匟埓道に向かっお『自分はこれたで少しも、謀ごずを、やった事が無いので、ここを匕揚げた埌も、跡は少しも濁るこずはあるたい。それだけはよく芋おおけ』ず蚀っおおいたずいう事である。

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第䞉十五ケ条 

人を籠絡しお、陰に事を謀る者は、奜し其の事を成し埗るずも、慧県より之を芋れば、醜状著るしきぞ。人に掚すに、公平至誠を以おせよ。公平ならざれば、英雄の心は決しお攬られぬもの也。
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人をごたかしお、陰でこそこそず策略する者は、たずえその事が䞊手に出来あがろうずも、物事をよく芋抜く人がこれを芋れば、醜い事がすぐ分かる。人に察しおは垞に公平で真心をもっお接するのが良い。公平でなければ英雄の心を掎む事は出来ないものだ。

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第䞉十六ケ条 

聖賢に成らんず、欲する志無く、叀人の事跡を芋迚も、䌁お及ばぬず、云ふ様なる心ならば、戊に臚みお、逃るより猶卑怯なり。朱子も癜刃を芋お、逃る者はどうもならぬず云はれたり。誠意を以お聖賢の曞を読み、其の凊分せられたる心を、身に䜓し心に隓する修業臎さず、唯䞪様の蚀、䞪様の事ず、云ふのみを知りたりずも、䜕の詮無きもの也。予、今日人の論を聞くに、䜕皋尀もに論ずるずも、凊分に心行き枡らず、唯口舌の䞊のみならば、少しも感ずる心之れ無し。真に其の凊分有る人を芋れば、実に感じ入る也。聖賢の曞を空しく読むのみならば、譬ぞば人の剱術を傍芳するも同じにお、少しも自分に埗心出来ず。自分に埗心出来ずば、䞇䞀立ち合ぞず申されし時、逃るより倖有る間敷也。
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聖人賢者になろうずする気持ちがなく、昔の人が行なった史実をみお、自分にはずおもたねる事が出来ないず思うような気持ちであったら、戊いに臚んで逃げるより、なお卑怯なこずだ。朱子昔の䞭囜南宋の孊者は抜いた刀を芋お逃げる者はどうしようもないず蚀われた。誠意をもっお聖人賢者の曞を読み、その䞀生をかけお培われた粟神を、心身に䜓隓するような修業をしないで、ただこのような蚀葉を蚀われ、このような事業をされたずいう事を知るばかりでは䜕の圹にも立たぬ。私は今、人の蚀う事を聞くに、䜕皋もっずもらしく論じようずも、その行いに粟神が行き枡らず、ただ口先だけの事であったら少しも感心しない。本圓にその行いの出来た人を芋れば、実に立掟だず感じるのである。聖人賢者の曞をただ䞊蟺だけ読むのであったら、ちょうど他人の剣術を傍から芋るのず同じで、少しも自分の身に付かない。自分の身に付かなければ、䞇䞀『刀を持っお立ち䌚え』ず蚀われた時、逃げるよりほかないであろう。
―――――――――
第䞉十䞃ケ条 

倩䞋埌䞖迄も、信仰悊服せらるるものは、只是䞀箇の真誠也。叀ぞより父の仇を蚎ちし人、其の麗ず挙お数ぞ難き䞭に、独り曜我の兄匟のみ、今に至りお児童婊女子迄も、知らざる者の有らざるは、衆に秀でお、誠の節き故也。誠ならずしお、䞖に誉めらるるは、僥倖の誉也。誠節ければ、瞊什圓時知る人無くずも、埌䞖必ず知己有るもの也。
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未来氞劫たでも信じお心から埓う事が出来るのは、ただ䞀぀の真心だけである。昔から父の仇を蚎った人は数えきれないほど倧勢いるが、その䞭でひずり曜我兄匟だけが、今の䞖に至るたで女子子䟛でも知らない人のないくらい有名なのは、倚くの人にぬきんでお真心が深いからである。真心がなくお䞖の䞭の人から誉められるのは偶然の幞運に過ぎない。真心が深いず、たずえその圓時、知る人がなくおも埌の䞖に必ず心の友が出来るものである。
―――――――――
第䞉十八ケ条 

䞖人の唱ふる機䌚ずは、倚くは僥倖の仕當おたるを蚀ふ。真の機䌚ずは、理を尜しお行ひ、勢を審かにしお動くず云ふに圚り。平日囜倩䞋を憂ふる誠心厚からずしお、只時のはずみに乗じお成し埗たる事業は、決しお氞続せぬものぞ。
​
䞖の䞭の人の蚀うチャンスずは、倚くはたたたた埗た偶然の幞せの事を指しおいる。しかし、本圓のチャンスずいうのは道理を尜くしお行い、時の勢いをよく芋きわめお動くずいう堎合のこずだ。぀ね日頃、囜や䞖の䞭のこずを憂える真心がなくお、ただ時のはずみにのっお成功した事業は、決しお長続きしないものである。 
―――――――――
第䞉十九ケ条 

今の人、才識有れば、事業は心次第に、成さるるものず思ぞども、才に任せお為す事は、危くしお芋お居られぬものぞ。䜓有りおこそ、甚は行はるるなり。肥埌の長岡先生の劂き君子は、今は䌌たる人をも芋るこずならぬ様に、なりたるずお嘆息なされ、叀語を曞きお授けらる。

倫倩䞋非誠䞍動。非才䞍治。誠之至者其動也速。
才之呚者其治也広。才興誠合然埌事可成。
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今の人は、才胜や知識だけあれば、どんな事業でも思うたたに出来るず思っおいるが、才胜に任せおする事は、危なかしくお芋おはおられないものだ。しっかりした内容があっおこそ物事は立掟に行われるものだ。肥埌の長岡先生長岡監物、熊本藩家老、勀皇家のような立掟な人物は、今は芋る事が出来ないようになったずいっお嘆かれ、昔の蚀葉を曞いお䞎えられた。

『䞖の䞭のこずは真心がない限り動かす事は出来ない。才胜ず識芋がない限り治める事は出来ない。真心に撀するずその動きも速い。才識があたねく行枡っおいるず、その治めるずころも広い。才識ず真心ず䞀緒になった時、すべおの事は立掟に出来あがるであろう』
―――――――――
第四十ケ条 

翁に埓お、犬を駆り兎を远い、山谷を跋枉しお、終日猟り暮らし、䞀田家に投宿し、济終りお、心神いず爜快に芋えさせ絊ひ、悠然ずしお申されけるは、君子の心は、垞に斯の劂くにこそ、有らんず思ふなりず。
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南掲翁に埓っお犬を連れお兎を远い、山や谷を歩いお䞀日䞭狩り暮らし、田舎の宿で颚呂に入っお、身も心も、きわめお爜快になったずき、悠々ずしお蚀われるには『君子の心はい぀もこのように爜やかなものであろうず思う』ず。
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第四十䞀ケ条 

身を修し、己を正しお、君子の䜓を具ふるずも、凊分の出来ぬ人ならば、朚偶人も同然なり。譬ぞば数十人客、䞍意に入り来んに、譬え䜕皋饗応したく思ふずも、兌お噚具調床の備無ければ、唯心配するのみにお、取賄ふ可き様有間敷ぞ。垞に備あれば、幟人なりずも、数に応じお賄はるる也。倫れ故平日の甚意は肝腎ぞずお、叀語を曞お賜りき。

文非鉛槧也。必有凊事之才。歊非劔楯也。必有料敵之智。才智之所圚䞀焉而巳。
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修行しお心を正しお、君子の心身を備えおも、事にあたっおその凊理の出来ない人は、ちょうど朚で䜜った人圢ず同じ事である。たずえば数十人のお客が突然おしかけお来た堎合、どんなに接埅しようず思っおも、食噚や道具の準備が出来おいなければ、ただおろおろず心配するだけで、接埅のしようもないであろう。い぀も道具の準備があれば、たずえ䜕人であろうずも、数に応じお接埅する事が出来るのである。だから、普段の準備が䜕よりも倧事な事であるず叀語を曞いお䞋さった。


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